NWネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ

平成24年度秋期 ネットワークスペシャリスト 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 モバイル端末を利用したシステムの構築に関する次の記述を読んで、設問1~3に答えよ。 F社は、機械部品の卸売業を営む中堅の企業であり、社内で受発注システムを利用している。 F社の受発注システムは、Webアプリケーションで構成されており、社内にはネットワーク機器及び各種サーバが設置されている。社内の有線LANは、100 BASE-TXを用いたイーサネットで構築されている。会議室には無線LANのアクセスポイント(以下、APという)が設置され、IEEE 802.11g規格の無線LANを利用して、会議室に設置したPCから社内ネットワークにアクセスできる。受発注システムのWebアプリケーションは、商品名と数量を受け付け、在庫の確認と製造元への発注処理を行う。一度の注文で複数の商品が発注可能になっている。多岐にわたる取扱商品の説明は、Webサーバのカタログページとファイルサーバのカタログデータに保有している。 現在、F社では顧客の注文依頼を、電話とファックスで受け付け、オペレータが社内のPCをクライアント端末に用いて、受発注システムに入力している。しかし、営業部員からは、客先を訪問した際に、その場でインターネットを通じて受発注処理をしたいという要望が出されていた。 F社は、営業部員の要望を受け、受発注システムをインターネット経由でも利用可能にし、クライアント端末を、ノートPCとモバイル端末に変更して、クライアント端末と社内ネットワークを無線LANで接続できるよう、受発注システムの変更を行うことにした。F社が開発計画中の新しい受発注システム(以下、モバイル受発注システムという)の構成を、図1に示す。 図1 モバイル受発注システムの構成(抜粋) モバイル受発注システムでは、新たにIEEE 802.11nを実装したAP、ノートPC及びモバイル端末を導入する予定である。モバイル端末には、スマートフォン、タブレット端末など複数の種類を用意し、社員は業務に適したものを利用する。ノートPCは社内だけで利用するが、モバイル端末は社外への持ち出しを許可し、社外からRPサーバを経由してWebサーバにアクセスできるようにする。 〔無線LANの設計〕 システム企画課のG君は、まず、社内の無線LANの設計に着手した。次は、無線LANネットワークの設計に関する、G君と上司のH氏の会話である。 H氏:今回は無線LANの規格としてIEEE 802.11nを利用できるということだが、今まで使っていたIEEE 802.11gとはどこが違うのかな。 G君:はい。IEEE 802.11gでは帯域幅20MHzであったのに対し、IEEE 802.11nでは40MHzも利用可能となっています。これは隣り合う帯域幅20MHzのチャネルを二つ束ねることによって、送信データ量を2倍以上に増やす【ア】という技術を使ったものです。これによって、例えば20MHzでは理論値で144Mビット/秒だった伝送速度が、最大で【イ】Mビット/秒になります。 また、送信側と受信側の双方で複数のアンテナを使い、同時に異なるデータを送信して受信時に合成する【ウ】という技術によって、データをより高速にやり取りすることができます。 H氏:同時に、従来のIEEE 802.11gを引き続き利用しても問題ないのかな。 G君:IEEE 802.11nとIEEE 802.11gで同じチャネルを使った場合には、通信ができないことがあります。それを回避するために、IEEE 802.11nのmixed modeでは、フレームの先頭にIEEE 802.11gと同じ【エ】を付加して通信のタイミングをとり、同時利用を可能にすることができます。ただし、遅い方の通信速度に影響を受けて、スループットが低下します。 H氏:その他にも、IEEE 802.11nを利用する上で、留意すべきことはあるかな。 G君:IEEE 802.11nでは、フレームアグリゲーションを使って、①フレームの送信待ち時間と確認応答の回数を減らすことで遅延時間を短縮し、データの高速なやり取りが可能になります。ただし、使用するアプリケーションによっては、②フレームアグリゲーションの影響を考慮する必要があります。 H氏:なるほど。フレームアグリゲーションを使用するかどうかは、アプリケーションとの組合せなど、様々な試行をして決定する必要があるということだな。その他、無線LAN以外の部分では、一部をギガビットイーサネットに変更することを検討すべきではないかな。インターネット経由のデータのやり取りを減らすために、客先へ行く前に、ファイルサーバからモバイル端末に、カタログデータをダウンロードしておきたいのだが。 G君:そうですね。APの設置と併せて検討してみます。 〔Webアプリケーションの改修〕 次にG君は、Webアプリケーションの改修について検討した。G君が考えた、モバイル端末とWebサーバ間の送受信シーケンスを、図2に示す。 図2 モバイル端末とWebサーバ間の送受信シーケンス 従来、F社のクライアント端末は同一機種のPCだけであり、Webアプリケーションでは、セッション管理にクッキーを利用していた。③今回導入するノートPCとモバイル端末は、画面の大きさやブラウザの種類など、様々な仕様となっている。また、それらのブラウザの中にはクッキーを受け入れないものがあることから、G君は、Webアプリケーションがブラウザに送るURLに、パラメタとしてSIDを埋め込む方法を採用することにした。これを【オ】という。さらに、G君は、モバイル端末を使って、インターネット経由の受発注処理を受け付けるようにするため、必要と思われる通信はSSLを使用することにした。 図2を検証したH氏は、Webサーバの負荷を軽減するために、SSLをWebサーバ以外の機器に実装するよう、G君に指示した。さらに、H氏は、セキュリティ上の問題があることから、SIDの付与に関して改善すべき点があることを指摘し、G君はH氏の指摘に従って、見直しを実施した。 G君の検討結果を反映して、F社のモバイル受発注システムは無事完成し、順調に稼働した。 設問1 本文中の【ア】~【オ】に入れる適切な字句を答えよ。 設問2 〔無線LANの設計〕について、(1)~(3)に答えよ。 (1) 本文中の下線①を実現する、フレームアグリゲーションの仕組みを、25字以内で述べよ。 (2) 本文中の下線②でG君が指摘した、フレームアグリゲーションの影響とはどのようなものであると考えられるか。40字以内で具体的に述べよ。 (3) H氏が指摘した、ギガビットイーサネットに変更する区間を2か所、図1の機器名を用いて答えよ。 設問3 〔Webアプリケーションの改修〕について、(1)~(4)に答えよ。 (1) 本文中の下線③に対応するための、Webアプリケーションの改修内容を40字以内で述べよ。また、その場合に、Webアプリケーションが参照するHTTPリクエストのヘッダ部のフィールドの名称を答えよ。 (2) H氏がG君に指示した、SSLを実装すべき機器名を、図1から一つ選んで答えよ。 (3) H氏が指摘したセキュリティ上の問題を、30字以内で述べよ。 (4) SIDの付与に関するH氏の指摘に従って、G君が実施した見直しの内容を、35字以内で述べよ。
図1 モバイル受発注システムの構成(抜粋)。インターネットからルータとファイアウォールを経由して社内ネットワークへ接続し、DMZにDNSサーバとRPサーバ、内部にWebサーバ、DBサーバ、ファイルサーバ、APと端末を配置した構成図。
図1 モバイル受発注システムの構成(抜粋)。インターネットからルータとファイアウォールを経由して社内ネットワークへ接続し、DMZにDNSサーバとRPサーバ、内部にWebサーバ、DBサーバ、ファイルサーバ、APと端末を配置した構成図。
図2 モバイル端末とWebサーバ間の送受信シーケンス。モバイル端末とWebサーバ間で、非SSL通信とSSL通信を切り替えながら、ログイン、カタログ参照、商品登録、発注、ログアウトを行うシーケンス図。
図2 モバイル端末とWebサーバ間の送受信シーケンス。モバイル端末とWebサーバ間で、非SSL通信とSSL通信を切り替えながら、ログイン、カタログ参照、商品登録、発注、ログアウトを行うシーケンス図。
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前提条件と判断対象の対応を確かめる

モバイル端末を利用するシステムを検討するときは、判断の根拠となる前提条件に着目しましょう。扱う内容をすぐに結論へ結び付けず、その前提がどの範囲の判断を支えているかを確認することが出発点です。

この問題で問われていること

注目するのは、ある判断が成立する前提と、その判断を適用する範囲との対応です。与えられた情報を根拠に、明示された条件と自分が補った想定を区別し、想定を加えずにどこまで考えられるかを整理しましょう。

視点

前提条件は判断を支える土台です。ある条件の下で考えたことを別の範囲へ広げる際には、同じ前提が成り立つかを確かめる必要があります。まずは、根拠となる条件と考えている範囲の対応を整理しましょう。

確認ポイント

  • 判断の根拠となる前提条件を把握したか
  • 明示された条件と自分の想定を区別したか
  • 判断を適用する範囲が前提条件に合っているか
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解説

IEEE 802.11nの高速化と共存の仕組みを理解し、カタログ配信の経路に沿って有線LANの改善箇所を判断する問題です。Web側では端末別の表示対応、RPサーバへのSSL処理の移行、非SSLで露出するSIDの見直しを、本文と図から導きます。

問題の全体像

F社は、社内PCで利用していた受発注システムを、ノートPCやモバイル端末で利用できるように変更します。社内ではIEEE 802.11nの無線LANを導入し、社外からはRPサーバを経由してWebサーバへアクセスします。出題趣旨では、IEEE 802.11nを使った無線LANとWebのセキュリティ技術について、基本的な知識と理解力を問うとされています。技術用語を答えるだけでなく、カタログデータの転送経路やSSL・非SSL間のSIDの扱いを図から読み取ることが重要です。採点講評でも、本文の条件を踏まえることと、図中の機器名を正確に記述することが求められています。

設問1(ア)

着目するのは「隣り合う帯域幅20MHzのチャネルを二つ束ねる」という説明です。複数のチャネルを束ねて利用帯域幅を広げる技術を指しており、公式解答例では「チャネルボンディング」です。複数のアンテナを使う技術とは区別し、ここでは20MHzから40MHzへ帯域幅を広げる仕組みに対応させます。

設問1(イ)

本文は、20MHzで理論値144Mビット/秒となる場合について、40MHzに広げたときの最大伝送速度を尋ねています。公式解答例では「300」です。空欄の後にMビット/秒があるため、答案には数値を記入します。「送信データ量を2倍以上に増やす」という説明なので、144を単純に2倍して288とするのではなく、この条件での理論上の最大値を押さえます。IEEE 802.11n全体の最大速度を尋ねているわけではありません。

設問1(ウ)

「送信側と受信側の双方で複数のアンテナを使い」「同時に異なるデータを送信」という記述に着目します。複数のアンテナを利用して並列にデータを伝送する技術に対応し、公式解答例では「MIMO」です。チャネルボンディングが帯域幅を広げる仕組みであるのに対し、この空欄は複数のアンテナを利用する仕組みを問うています。

設問1(エ)

空欄は、IEEE 802.11nのmixed modeで、フレームの先頭に付加して通信のタイミングをとるものです。公式解答例では「プリアンブル」です。本文ではIEEE 802.11gと同じものを付加することが、従来規格との同時利用につながると説明されています。先頭に置かれる同期用の情報という役割と、異なる規格の共存という目的を結び付けて理解します。

設問1(オ)

本文では、クッキーを受け入れないブラウザにも対応するため、ブラウザへ送るURLにSIDをパラメタとして埋め込んでいます。公式解答例では、この方法を「URLリライティング」としています。次の要求でURLに含まれるSIDをサーバへ返すことで、セッションを識別します。この問題では、SIDをURLへ埋め込むという具体的な説明に対応する用語を答えます。

設問2(1)

下線①は、送信待ち時間と確認応答の回数を減らす効果を示しています。その仕組みとして、公式解答例では「宛先が同じ複数のフレームを連結して送信する。」としています。フレームを個別に送る代わりにまとめて送ることで、各フレームに伴う送信待ちや確認応答の負担を減らせます。25字以内の答案では、「同じ宛先」「複数のフレーム」「連結して送信」の三つを押さえます。

設問2(2)

下線②は、フレームをまとめて送ることで生じる、他の通信への影響を問うています。公式解答例では、無線チャネルの占有時間が長くなり、その間は他の通信が待たされるとしています。まとめて送る側の効率が上がっても、同じチャネルを使う別の通信には待ち時間が生じます。40字以内では「無線チャネルの占有時間が長くなり、他の通信が待たされる。」と、原因と影響を対応させて記述できます。単に「通信が遅くなる」とするだけでは、影響の具体性が不足します。

設問2(3)

H氏の目的は、客先へ行く前に、ファイルサーバからモバイル端末へカタログデータをダウンロードすることです。図1でその経路を追うと、ファイルサーバから社内のSW、APを経由して端末へ届きます。公式解答例では、変更する有線区間は「ファイルサーバとSWとの間」と「SWとAPとの間」です。既存の有線LANは100 BASE-TXなので、無線側を高速化しても、この経路の有線区間が転送速度を制限する可能性があります。採点講評では図中の機器名の不正確な記述が指摘されており、「SW」「AP」などの表記を図に合わせます。

設問3(1)

下線③は、導入端末によって画面の大きさやブラウザの種類などが異なることを示しています。公式解答例では、モバイル端末の種類に対応した形式のページコンテンツを送るように改修し、参照するHTTPリクエストヘッダのフィールドを「User-Agent」としています。40字以内の改修内容は「端末の種類に応じた形式のページコンテンツを送信する。」とまとめられます。User-Agentによる端末やブラウザの識別と、それに応じたコンテンツの送信を結び付けます。クッキーを受け入れない問題への対処は別の記述であり、この設問では下線③の端末仕様の違いに対応します。

設問3(2)

本文には、社外のモバイル端末がRPサーバを経由してWebサーバへアクセスするとあります。H氏の指示は、Webサーバの負荷を軽減するため、SSL処理を別の機器へ移すことです。公式解答例では「RPサーバ」です。外部からのアクセスを受けてWebサーバへ中継するRPサーバにSSL処理を担当させれば、WebサーバのSSL処理負荷を軽減できます。図1の凡例ではRPはリバースプロキシであり、答案では図中の機器名をそのまま用います。

設問3(3)

図2では、ログイン完了後に割り当てられたSID=yyyが、非SSLのカタログページ要求・表示にも、SSLの注文処理にも使われています。さらにSIDはURLに埋め込まれるため、非SSLの通信では暗号化されずに送られます。公式解答例では「非SSLの通信時に、SIDが漏えいするおそれがある。」です。30字以内では、漏えいする対象をSID、漏えいが起こり得る条件を非SSL通信と明確に示します。ログインや発注時だけSSLを使っていても、図2では同じSIDが非SSL通信に現れる点が問題です。

設問3(4)

設問3(3)の問題を踏まえると、非SSL通信で使ったSIDを、そのままSSL通信へ引き継ぐ扱いを見直す必要があります。公式解答例では、非SSLの状態からSSLを利用する際にSIDを振り直すとしています。35字以内では「非SSLからSSLへの切替時にSIDを振り直す。」とまとめられます。図2ではログイン完了時にxxxからyyyへ変わっていますが、その後のカタログ閲覧でyyyが非SSL通信に現れ、次のSSL通信にも引き継がれます。したがって、ログイン時の変更だけに着目せず、非SSLからSSLへ切り替わる場面を追うことが重要です。

学習のポイント

高速化の利点と他の通信への影響を併せて理解し、構成図の経路とシーケンス図のSIDを正確に追う力を身に付けましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成24年度秋期 ネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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