NWネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅱ

平成23年度秋期 ネットワークスペシャリスト 午後Ⅱ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 IT環境の改善に関する次の記述を読んで,設問1~6に答えよ。 Y社は,従業員400人のコンピュータ関連製品の販売会社で,東京に本社,札幌と福岡に営業所がある。Y社では,全社員が資料作成,インターネット利用などにPCを活用している。営業員は,外出時にPCを携帯して,顧客先での製品説明に活用するとともに,本社のDMZに設置されているリバースプロキシサーバ(以下,RPサーバという)経由で,販売支援サーバを利用している。 Y社のIT基盤である,現在のネットワークシステム構成を,図1に示す。 図1 現在のネットワークシステム構成(抜粋) 情報システム部のF部長は,PCからの情報漏えいと,電子メール(以下,メールという),ファイルデータなど個人が管理しているデータの消失の危険性が内在する,社内のIT環境に不安を抱いていた。 その不安が現実のものとなる事故が発生した。営業員が,外出先で不注意からPCを落とし,破損させてしまったのである。このPCに保存されていたのは,営業活動に欠かせないデータであり,困り果てた営業員は情報システム部に助けを求めてきた。情報システム部では,データ復旧サービスを利用して,PCに保存されたデータを回復させようとしたが,結局,ほとんどのデータが失われてしまった。F部長は,このような事故を回避するために,ネットワーク担当のG主任とサーバ・PC担当のH君に改善策を検討させることにした。 G主任とH君は,PCにデータを保存することが,情報漏えいとデータ消失リスクを大きくしていると考え,データをPCに保存しないシンクライアント(以下,TCという)システムを導入すべきであると判断した。また,メールサーバの運用にも改善すべき課題があったので,メールを一括してサーバに保管できる,外部のメールサービス(以下,メールサービスという)を活用するとともに,懸案であったメールアドレスのドメイン名の変更も提案することにした。二人は,これらの2点を改善策としてまとめ,F部長に報告した。F部長はこの報告を基に,IT環境の改善に関する企画書を作成して取締役会で提案し,承認された。そこでF部長は,早速,G主任とH君をメンバとするIT環境改善プロジェクトを発足させ,TCシステムの設計及びメールサービスへの移行方法の設計を指示した。 指示を受けたG主任とH君は,今後のプロジェクトの進め方と役割分担を決めた。 〔TCシステムの設計〕 TCシステムの設計を担当することになったH君は,まず,TCについて調査した。調査結果は,次のとおりである。 TCシステムには複数の形態があり,その中で,画面の情報をTCに転送する形態(以下,画面転送型という)が,ネットワークへの負荷が少ないことが分かった。 画面転送型TCシステムには,サーバベース方式(以下,SBCという)と仮想PC方式がある。SBCは,サーバで稼働させるPCのアプリケーションプログラム(以下,APという)を,複数のTCで共用する方式である。一方,仮想PC方式は,仮想化機構を組み込んだサーバに,PCの独立したプログラム実行環境をTCと1対1で用意する方式である。 TCシステムを導入するときは,データの移動が必要になる。また,TCでは,APの使用方法が少なからず変わるので,一時的には業務の混乱を招くことが予想される。 H君は,調査結果,現状のネットワークシステムの構成及びPC利用の状況をSI業者のS社に説明して,TCシステムの提案を求めた。S社からは,次の2点を骨子とする提案を受けた。 (1) TCシステムは,画面転送型のSBCとし,次の2段階に分けて導入する。 第1段階は,PCの持出し時の事故による,情報漏えいとデータ消失のリスクが大きい営業員のうち,本社所属の80人に導入する。 第2段階は,第1段階の導入,運用経験を生かして,全社に展開する。 (2) 使用中のPCは,更新時までTCとして活用する。 S社から提案を受けた,TCシステムの構成を,図2に示す。 図2 TCシステムの構成 TCシステムは,TC共用サーバ,TC管理サーバなどで構成される。 TCをTC管理サーバに接続すると,ログインパスワードの入力が求められる。ログインパスワードを入力してTC管理サーバで認証されると,TCはTC共用サーバに接続され,利用可能になる。このとき,TCは最も低負荷のTC共用サーバに接続され,TC共用サーバの負荷が平準化される。 次は,TCシステムの構成に関する,S社のIさん,G主任及びH君の会話である。 Iさん:TCシステムは,仮想化機構によって作成された仮想サーバ上で稼働させます。第1段階では,物理サーバを2台導入して,TC共用サーバとTC管理サーバを稼働させます。第1段階の導入では,既設のサーバ,L3SW1及びFWのIPアドレスの変更は伴いませんが,本社のPCのIPアドレスの変更とL3SW1へのIPアドレスの追加設定が必要になります。 H君:構成については分かりました。NASは,どんな用途に使用するのですか。 Iさん:用途は,二つあります。一つは,利用者ごとのTC利用環境を作るための情報を記録したファイル(以下,プロファイルという)を保管します。プロファイルの働きによって,①TC共用サーバにログインすると,ログインした利用者のTC利用環境が作られます。二つ目は,TC利用者が作成したファイル類を保管します。第1段階で,本社のFSをNASに統合します。 H君:FSのデータバックアップ作業が負担になっていましたから,助かります。営業所のFSもNASに統合しますよね。 Iさん:それは,第2段階で行うことを提案します。 H君:そうですか。 G主任:サーバとネットワーク機器の冗長化は,どのような方法で行うのですか。 Iさん:L2SWAとL2SWB,L2SWCとL2SWDは,スタック接続して一つのスイッチとして扱えるようにします。これらのL2SWから,サーバ,NAS間の接続には,リンクアグリゲーションを設定します。サーバとNASのNICには,チーミング機能を設定して2本の回線に負荷を分散させ,【ア】と冗長化を図ります。L3SWA,L3SWB及びL3SW1では,静的経路制御を行わせます。L3SWAとL3SWBにおけるVRRP関連の設定内容は,表1のとおりです。 G主任:L2SW1,L2SW2,L3SWA,L3SWB間でループが発生しませんか。 Iさん:表1の構成なので,ループは発生しません。また,②ポートやケーブルの障害時には,全てのVRRPが同期して,同じL3SWがマスタルータになります。 G主任:分かりました。 表1 L3SWAとL3SWBにおけるVRRP関連の設定内容(抜粋) VRRPでは,VRRPメッセージ(VRRP advertisement)がマスタルータから【イ】ルータへ送信され,マスタルータの稼働状態が報告される。VRRPメッセージは,宛先IPアドレスが224.0.0.18の【ウ】キャスト通信である。Priority値は,大小関係で優先順位が決まり,Preemptモードでは L3SWの起動タイミングに関係なく,最も【エ】値をもつルータが,マスタルータになる。 〔社外でのTC使用時のセキュリティ対策〕 社外でTCを使用しても,社内と全く同じ処理ができる。そこでG主任は,社外でのTC使用時には,どのようなセキュリティ対策を講じるのかを,Iさんに確認した。 Iさんの説明を,次に示す。 社外でTCを使用するときには,トークンを使ったワンタイムパスワード(以下,OTPという)方式の認証でセキュリティを確保する。OTPの認証処理を行う認証サーバは,新たに導入してL3SW1に接続する。また,認証からTC共用サーバへのログインまでの,一連の処理を自動化する機能をもつSSL-VPN装置を,DMZに設置する。社外でTCを使用するための認証システム構成を,図3に示す。 図3 社外でTCを使用するための認証システム構成 社外でTCを使用するときには,まずTCをSSL-VPN装置に接続させると,SSL-VPN装置から,利用者ID,ログインパスワード,OTPの入力が求められる。これらを入力すると,SSL-VPN装置の連携機能によって,OTPの認証,ログインパスワードの認証及びTC共用サーバへのログインが自動的に行われる。ログイン後,TCにはデスクトップ画面が表示され,必要なAPを使用することができる。 OTPは,時刻同期方式を利用する。社員に,あらかじめトークンと呼ばれるパスワード生成器を配布する。トークンが生成する数字は1分経過ごとに変化し,一度しか使用できない。本方式では,時刻のずれが発生するので,ずれの許容範囲を設定する。認証サーバは,許容範囲内で認証を試みて,認証できたらトークンとの時刻のずれを推定して記憶し,次回の認証時に,記憶したずれを基に時刻の補正を行う。 次に,G主任とH君は,メールサービスの利用について検討した。 〔現在のメールシステムの構成と利用状況〕 まず,G主任はH君に対して,図1に示した現在のメールシステムの構成と利用状況を,次のように説明した。 DMZに,Y社ドメイン(以下,y-sya.example.co.jpという)宛てのメールを受信するメール中継サーバがあり,社外へのメールも,このサーバが中継している。社内には,社員が送受信に使用する社内メールサーバがある。 DMZに設置された,DNSサーバのゾーンデータファイルの内容を,図4に示す。 図4 DNSサーバのゾーンデータファイルの内容(抜粋) Y社では,メール消失事故を防ぐために,数年前にIMAP4の使用を推奨した。しかし,強制をしなかったので,現在でも多くの社員がPOP3を使用している。IMAP4の利用者は,社内メールサーバに作成したフォルダにメールを保存している。POP3の利用者は,PCに作成したフォルダにメールを保存し,メールボックスのメールは,メーラでダウンロード後に消去されるように設定している。Y社では,PCのフォルダに保存したメールの障害時に備えた対応作業は,社員に任せている。 POP3とIMAP4の違いは,メーラを使っているだけではほとんど意識されない。しかし,③複数のPCで同じメールアカウントを使用するときには,違いが分かる。 〔メールサービスへの移行方法の設計〕 メールサービスについては,サービス料金,機能,保存可能なメール容量,セキュリティ対策状況などを調査し,M社のメールサービスを利用することにした。 二人が設計した,IT環境改善後のネットワークシステム構成を,図5に示す。 図5 IT環境改善後のネットワークシステム構成(抜粋) 次に,二人は,M社のメールサービスへの移行方法の設計を行った。 M社のメールサービスでは,メールを長期間保存できるだけの容量とアーカイブサービスが提供されているので,メール消失リスクを回避できる。メールサービスでは,使用中のメーラを継続して使えるだけでなく,Webブラウザのメーラ(以下,Webメールという)も提供されている。M社のWebメールは,使用中のメーラと同等の操作性なので,運用の容易さを重視し,TCではWebメールを使用させることにする。Webメールでは,社内メールサーバ及びPCに作成されたフォルダは使用できないので,Webメール使用前に,使用中のメーラを使って,必要なメールをメールサービスに移動させる。社内メールサーバに登録されているメーリングリスト(以下,MLという)には,社内用,社外向けに公開しているものなど多種のものがあり,それらの中には,利用されていないものも多い。MLのメールサービスへの登録は,移行ツールが提供されていないので,個別に登録する必要がある。そこで,MLは,メールサービス利用開始後に,必要性を精査して登録することにする。 M社のメールサービスでは,メールサービスの利用契約を締結した後に,統一するY社の新しいドメイン(以下,y-sya.example.comという)が設定され,M社のDNSサーバで公開される。 二人がまとめた,メールサービスへの切替スケジュールを,図6に示す。 図6 メールサービスへの切替スケジュール 図6中の項番で,各作業者が行う具体的な作業内容を,次に示す。 1. メールサービスに,社員のアカウントを登録する。個人のメールアドレスのユーザ名は,使用中のものをそのまま使う。また,メールサービスがy-sya.example.co.jp宛てのメールを受信したとき,そのユーザのアカウントが登録されていれば,メールサービスのメールボックスに配信され,登録されていないアカウントやMLのときはy-sya.example.co.jpに中継されるように,あらかじめ設定しておく。 2. メールサービスのツールで,パスワードを設定する。また,使用中のメーラでメールサービスへの接続設定を行う。社内メールサーバとPCに保存されたメールをメールサービスに移動させるために,メール読出しはIMAP4を使用する。これらの設定によって,使用中のメーラで,メールサービスと社内メールサーバの両方でメール送受信を行えるようになる。この段階では,メールの送受信を社内メールサーバで行うように設定する。 3. 社内メールサーバが受信したメールを,メールサービスに配送させるために,社内メールサーバに,メールアドレスの変換設定を行う。この変換は,メールアドレスのy-sya.example.co.jpをy-sya.example.comに書き換えるもので,MLに関しては,個人アドレスに展開された後に,この変換が行われる。宛先ドメインが書き換えられたメールは,メールサービスに配送されることになる。 4. メールの送受信をメールサービスに切り替える。 5. 社内メールサーバとPCに保存されたメールをメールサービスに移動する。 6. MLを見直して,メールサービスに登録する。 7. 項番1でメールサービスに設定した,y-sya.example.co.jpへの中継を解除する。 8. DNSサーバのMXレコードを変更し,y-sya.example.co.jp宛てのメールをメールサービスに配送させる。 9. 社内メールサーバとメール中継サーバを撤去する。 なお,TCシステムの導入には,ファイルの移動と既設のPC,ネットワーク機器の設定変更などが必要になることから,メールサービスに移行した後,TCシステムを導入することにした。 G主任とH君からの設計内容の説明を受けたF部長は,TCシステムの方式とその導入ステップ及びメールサービスへの切替手順に問題がないと判断し,プロジェクトメンバに改善への取組みを指示した。 設問1 本文中の【ア】~【エ】に入れる適切な字句を答えよ。 設問2 〔TCシステムの設計〕について,(1)~(5)に答えよ。 (1) 本文中の下線①を実現させるためには,何と何が対応付けられる必要があるかを,15字以内で答えよ。 (2) 営業所のFSのNASへの統合を第2段階で行うのは,どのような問題の発生を避けるためか。その問題の内容を,25字以内で述べよ。 (3) 図2中のL2SW1,L2SW2,L3SWA,L3SWB間でループは発生しない。表1を参照し,その理由を,25字以内で述べよ。 (4) 本文中の下線②の動作のために設定している項目を,表1から答えよ。また,その項目を設定した場合,障害発生時のVRRPの動作を,50字以内で述べよ。 (5) VRRPメッセージに含まれる情報を,表1中の項目で,三つ答えよ。 設問3 〔社外でのTC使用時のセキュリティ対策〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) トークンが生成する数字を変化させる時間間隔を長くすると,トークンに表示された数字を正しく入力しても,不正パスワードになるケースが発生することがある。その理由を,20字以内で述べよ。 (2) 本文中の時刻同期方式で,ずれた時刻を認証サーバが推定する方法を,50字以内で述べよ。 設問4 〔現在のメールシステムの構成と利用状況〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) 社員に任せている,障害時に備えた対応作業の内容を,30字以内で述べよ。 (2) 本文中の下線③のときに,POP3で発生する問題を,30字以内で述べよ。 (3) 図4において,セカンダリDNSサーバが,ゾーンデータファイルをコピーすべきか否かをチェックする時間間隔を答えよ。 設問5 〔メールサービスへの移行方法の設計〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) 図6中の項番2の作業期間中,メール送受信を社内メールサーバだけで行わせる理由を,50字以内で述べよ。 (2) 図6中の項番3の作業の代わりに,社内メールサーバがメールを受信したときに,そのメールをそのままメールサービスに転送させる中継設定を行ったとする。この場合,メールサービスにアカウントが存在しないメールアドレス宛てのメールで問題が発生する。その問題を,40字以内で述べよ。 (3) 図6中の項番4の実施後,項番6でMLが登録されるまでの間に,社内から,Y社の社員だけが登録されているML宛てに送信されたメールは,どのように転送されてメールサービスのメールボックスに配信されるか。メールサーバ名又はメールサービスを,【転送経路】の表記方法に従い,経由する順に全て列挙せよ。 【転送経路】 [経由する順に全て列挙]→ メールサービス → メールボックス 設問6 第1段階のTCシステム導入時の作業と変更について,(1),(2)に答えよ。 (1) 移動すべきデータを二つ挙げ,それぞれの移動先とともに答えよ。 (2) 本社の既設のPCとL3SW1に設定されているネットワーク関連情報のうち,機器のインタフェースのIPアドレス以外に,変更されるべき情報を二つ挙げ,それぞれ20字以内で述べよ。
図1 現在のネットワークシステム構成(抜粋)。本社はルータ、FW、L3SW1を中心に、DMZ(メール中継・RP・Web・DNSサーバ)、サーバ群1・2、FS、社内メールサーバ、L2SW1/L2SW2配下のPCで構成。札幌・福岡営業所はFS、L2SW、PCを持ち、広域イーサ網で本社と接続する。網掛けは撤去予定のサーバ。
図1 現在のネットワークシステム構成(抜粋)。本社はルータ、FW、L3SW1を中心に、DMZ(メール中継・RP・Web・DNSサーバ)、サーバ群1・2、FS、社内メールサーバ、L2SW1/L2SW2配下のPCで構成。札幌・福岡営業所はFS、L2SW、PCを持ち、広域イーサ網で本社と接続する。網掛けは撤去予定のサーバ。
図2 TCシステムの構成。ストレージとFCSW2台に、TC共用サーバ・TC管理サーバを載せた仮想化機構の物理サーバ2台を接続。物理サーバ、ウイルス対策サーバ、NASはスタック接続したL2SWA〜Dに接続し、L3SWA/B(ポートP0,P1,P10〜P12)経由でL2SW1/2配下のTCとL3SW1につながる。
図2 TCシステムの構成。ストレージとFCSW2台に、TC共用サーバ・TC管理サーバを載せた仮想化機構の物理サーバ2台を接続。物理サーバ、ウイルス対策サーバ、NASはスタック接続したL2SWA〜Dに接続し、L3SWA/B(ポートP0,P1,P10〜P12)経由でL2SW1/2配下のTCとL3SW1につながる。
表1 L3SWAとL3SWBにおけるVRRP関連の設定内容(抜粋)。設定1〜3のVRRPグループID1〜3、VLAN1〜3、仮想IP(IPVIP10/20/30)、所属ポート(P0/P1/P10)、仮想MACアドレスを示す表。Priority値はL3SWAが100、L3SWBが80。監視対象インタフェースを定め、障害検出時のPriority値は50。
表1 L3SWAとL3SWBにおけるVRRP関連の設定内容(抜粋)。設定1〜3のVRRPグループID1〜3、VLAN1〜3、仮想IP(IPVIP10/20/30)、所属ポート(P0/P1/P10)、仮想MACアドレスを示す表。Priority値はL3SWAが100、L3SWBが80。監視対象インタフェースを定め、障害検出時のPriority値は50。
図3 社外でTCを使用するための認証システム構成。トークンを持つ社外のTCがインターネット経由で本社に接続する。本社のルータ、FW、DMZ内のL2SW・Web/DNSサーバは既設で、DMZにSSL-VPN装置を新設する。L3SW1には認証サーバを新たに接続する。
図3 社外でTCを使用するための認証システム構成。トークンを持つ社外のTCがインターネット経由で本社に接続する。本社のルータ、FW、DMZ内のL2SW・Web/DNSサーバは既設で、DMZにSSL-VPN装置を新設する。L3SW1には認証サーバを新たに接続する。
図4 DNSサーバのゾーンデータファイルの内容(抜粋)。y-sya.example.co.jpのゾーンデータ。$TTL 86400、SOAのserial 2011090101、refresh 43200、retry 1800、expire 604800、negative cache 10800。NSはns.y-sya.example.co.jp、MXは優先度10でmail.y-sya.example.co.jp。
図4 DNSサーバのゾーンデータファイルの内容(抜粋)。y-sya.example.co.jpのゾーンデータ。$TTL 86400、SOAのserial 2011090101、refresh 43200、retry 1800、expire 604800、negative cache 10800。NSはns.y-sya.example.co.jp、MXは優先度10でmail.y-sya.example.co.jp。
図5 IT環境改善後のネットワークシステム構成(抜粋)。インターネットにM社データセンタのメールサービスシステムと社外TCが接続。本社はルータ、FW、DMZ(Web・DNSサーバ、SSL-VPN装置)、L3SW1に接続した認証サーバ・サーバ群1/2・広域イーサ網向けL2SW、L2SWA〜D、L3SWA/B、L2SW1/2配下のTCで構成。
図5 IT環境改善後のネットワークシステム構成(抜粋)。インターネットにM社データセンタのメールサービスシステムと社外TCが接続。本社はルータ、FW、DMZ(Web・DNSサーバ、SSL-VPN装置)、L3SW1に接続した認証サーバ・サーバ群1/2・広域イーサ網向けL2SW、L2SWA〜D、L3SWA/B、L2SW1/2配下のTCで構成。
図6 メールサービスへの切替スケジュール。項番1〜9の作業名と作業者(情報システム部または利用者)と、作業開始から1〜8週の実施時期を矢印と三角印で示す工程表。項番3は夜間、項番4は業務開始前に実施する。項番9のメールサーバ撤去は8週目。
図6 メールサービスへの切替スケジュール。項番1〜9の作業名と作業者(情報システム部または利用者)と、作業開始から1〜8週の実施時期を矢印と三角印で示す工程表。項番3は夜間、項番4は業務開始前に実施する。項番9のメールサーバ撤去は8週目。
解き方のヒントを見る

情報が適用される範囲を確かめる

導入や移行を含む課題では、示された情報がどの範囲に当てはまるかを意識して整理しましょう。ある場面の条件を全体へ広げて受け取っていないか、情報とその適用範囲の対応を確認することが考える手掛かりになります。

この問題で問われていること

考える際は、条件や記述が当てはまる範囲に注目してください。限定された範囲についての情報と、より広い範囲についての情報を混同していないか、判断の根拠として使う前に立ち止まって確かめましょう。

視点

情報を整理するときは、その情報が扱う範囲も一緒に捉えます。範囲が異なる情報を同じものとして扱っていないかを意識し、自分の判断に用いる範囲との対応を確かめましょう。

確認ポイント

  • 情報が当てはまる範囲を意識できているか
  • 限定された範囲の情報を全体へ広げていないか
  • 判断に使う情報と、その判断が対象とする範囲が対応しているか
正解と解説を見る

解説

PCの破損によるデータ消失を契機に、TCへの移行と外部メールサービスの利用を進める事例です。データ集約に伴う性能と可用性、OTP認証、既存システムを運用しながらメールを移行する手順を、構成図と設定表から読み取ります。

問題の全体像

Y社では、持ち出したPCの破損で営業データが失われ、PCへのデータ保存と社員任せの管理が課題になっています。改善策は、画面転送型SBCのTC導入と外部メールサービスへの移行です。TCは本社の営業員80人から段階的に導入し、メールは既存環境を運用しながら切り替えます。出題趣旨では、TCに必要な耐障害性と性能を考慮したネットワーク設計、円滑なクラウドサービスへの移行設計が問われています。構成図だけでなく、VLAN、障害監視、作業順序を組み合わせて動作を説明することが中心です。

設問1(ア)

直前の「チーミング機能を設定して2本の回線に負荷を分散させ」に着目します。複数回線を束ねて利用することで、通信に使える帯域を広げる効果と、回線障害に備える効果が得られます。公式解答例では「帯域拡大」です。採点講評でも、2本の回線を一つの回線として束ねたときの効果に着目することが示されています。

設問1(イ)

VRRPメッセージは、マスタルータが稼働していることを、代替を担うルータへ通知するためのものです。通知を受ける側の役割名を入れるので、公式解答例では「バックアップ」です。ここでいうバックアップは、マスタの障害時に引き継ぐルータを指します。

設問1(ウ)

宛先IPアドレス「224.0.0.18」と、空欄の後に「キャスト」があることに着目します。VRRPメッセージは、このアドレスを宛先とするマルチキャスト通信です。公式解答例では、空欄部分だけの「マルチ」を答えています。

設問1(エ)

本文はPriority値の大小で優先順位が決まると説明し、表1ではL3SWAが100、L3SWBが80になっています。Preemptモードでは、起動順にかかわらず高いPriority値のルータがマスタになります。公式解答例では「大きい」です。障害時に値を50へ下げる設定も、この大小関係を利用しています。

設問2(1)

下線①は、ログインした利用者に応じたTC利用環境を作る動作です。NASには利用者ごとの環境情報を記録したプロファイルが保存されるため、ログインした利用者から使用すべきプロファイルを特定できる必要があります。公式解答例では「利用者名とプロファイル名」です。この二つの対応関係を15字以内で示します。

設問2(2)

第1段階のTC導入対象は本社の営業員であり、営業所のPCはまだTC化されません。この時点で営業所のFSを本社のNASへ統合すると、営業所のPCは広域イーサ網を介してファイルを利用することになります。画面転送とは異なり、ファイル自体の転送が必要になるため、応答速度の低下が問題になります。公式解答例の要点は「営業所からのFS利用時の応答速度低下」で、25字以内では利用場所と性能への影響を押さえます。

設問2(3)

図2では4台のスイッチが環状に接続されているように見えますが、表1ではP0がVLAN1、P1がVLAN2に所属しています。P0とP1が異なるVLANなので、この接続全体が同一VLANのレイヤ2ループにはなりません。公式解答例では「P0とP1のVLANが異なるから」です。採点講評は、バックアップ側のL3SWもスイッチとしては通常どおり動作するため、バックアップであることをループが発生しない理由にしてはいけないと指摘しています。

設問2(4)(項目)

下線②は、ポートやケーブルの障害に応じて、各VRRPのマスタを同じL3SWにそろえる動作です。表1には、各VRRPの所属ポート以外のポートを監視する設定が示されています。自分のVRRPが直接使うポート以外の障害も優先順位へ反映するための項目なので、公式解答例では「監視対象インタフェース」です。

設問2(4)(動作)

表1の「監視対象インタフェース」と「障害検出時のPriority値」を組み合わせて読みます。監視対象ポートがリンクダウンすると、該当するVRRPのPriority値を50に設定します。例えば、通常100のL3SWAが50になると、正常なL3SWBの80より低くなり、マスタ交代につながります。公式解答例の要点は「監視対象のポートがリンクダウンしたとき、Priority値を50に再設定する」です。50字以内では、検出条件と変更後の値を明記します。

設問2(5)①

表1の項目から、VRRPメッセージに含まれる情報を選びます。公式解答例の一つ目は「VRRPグループID」です。表1にはグループ1~3があり、通知がどの仮想ルータに関するものかを識別する情報になります。

設問2(5)②

公式解答例の二つ目は「Priority値」です。本文ではこの値の大小でマスタの優先順位が決まると説明されています。VRRPメッセージに含めて通知することで、他のルータが送信元の優先順位を判断できます。

設問2(5)③

公式解答例の三つ目は「仮想IPアドレス」です。表1では各VRRPグループにIPVIP10、IPVIP20、IPVIP30が設定されています。ここで答えるのは仮想ルータとして使用するIPアドレスであり、VRRPメッセージの送信先である224.0.0.18とは区別します。

設問3(1)

本文の「一度しか使用できない」という条件に着目します。数字が変わる間隔を長くすると、最初の認証後も同じ数字が表示され続け、その数字で再び認証を試みる可能性が高まります。入力が表示どおりでも、使用済みのOTPなので拒否されます。公式解答例では「パスワードの再使用となるから」です。採点講評でも、同じ数字が長時間表示されると2度使われる可能性が生じることが説明されています。20字以内では再使用が理由であることを示します。

設問3(2)

認証サーバは時刻ずれの許容範囲内で認証を試みるため、認証に成功したOTPがどの時刻に対応するかを特定できます。その生成時刻と、認証サーバがOTPを受信した時刻との差から、トークンとの時刻ずれを推定します。公式解答例もこの二つの時刻の差を用いています。50字以内では「認証できたパスワードの生成時刻と受信時刻の差から推定する」とまとめられます。本文では、推定したずれを記憶し、次回の認証時に補正へ利用するとされています。

設問4(1)

本文では、POP3利用者がメールをPCのフォルダに保存し、ダウンロード後にサーバのメールを消去する設定になっています。PCが故障すると保存メールを失うため、事前に複製を保管する作業が必要です。公式解答例では「PCに作成されたフォルダのメールのバックアップ」です。30字以内では、対象がPC内の保存メールであることと、作業がバックアップであることを押さえます。

設問4(2)

下線③の複数PC利用と、本文の「ダウンロード後に消去される」という設定を結び付けます。あるPCがメールを取得してサーバから削除すると、別のPCはそのメールを取得できません。公式解答例では「複数のPCから、同じメールを読むことができない」です。30字以内ではこの結果を述べます。POP3という名称だけで判断せず、本問で指定された削除設定を根拠にすることが大切です。

設問4(3)

図4のSOAレコードで、通常時にセカンダリDNSサーバが更新の有無を確認する間隔はrefresh時間です。設定値は43200なので、公式解答例では「43、200秒(12時間)」です。retryの1800秒は確認に失敗した場合の再試行間隔、TTLの86400秒はキャッシュの有効期間であり、設問が求める間隔とは用途が異なります。

設問5(1)

図6では、項番2のパスワード設定と接続設定が一定の期間をかけて行われます。作業中は設定済みの利用者と未設定の利用者が混在し、未設定の利用者はメールサービスのメールボックスから受信できません。そのため、項番2の期間中は社内メールサーバで送受信を続けます。公式解答例も未設定利用者が受信できないことを理由にしています。50字以内では、未設定利用者と受信不能を示します。採点講評は、作業が1週間以上にわたる点への着目を求めています。

設問5(2)

項番1では、メールサービスにアカウントがない旧ドメイン宛てのメールを、旧環境へ中継する設定になっています。社内メールサーバが宛先を変えずにメールサービスへ送り返すと、メールサービスは再び旧環境へ中継し、同じ経路を繰り返します。公式解答例では「メールサービス、メール中継サーバ及び社内メールサーバ間をループする」です。40字以内ではループする機器を示します。項番3のドメイン変換は、この単純な往復を避ける仕組みとして読み取れます。

設問5(3)

項番4の後は送信元がメールサービスになっていますが、MLは項番6まで未登録です。旧ドメインのML宛てメールは、項番1の設定でメール中継サーバを経由して社内メールサーバへ届きます。そこで社員の個人アドレスに展開され、項番3の設定で新ドメインへ書き換えられ、メール中継サーバを通ってメールサービスへ配送されます。公式解答例で記入する部分は「メールサービス → メール中継サーバ → 社内メールサーバ → メール中継サーバ」です。指定済みの末尾を含む全経路は「メールサービス → メール中継サーバ → 社内メールサーバ → メール中継サーバ → メールサービス → メールボックス」となります。

設問6(1)①

TC導入の目的は、利用者のデータをPCに保存せずサーバ側で管理することです。したがって、TCとして流用するPCに残っているファイルを移動する必要があります。本文ではNASがTC利用者の作成ファイルを保管すると説明されています。公式解答例の一つ目は、移動対象が「TCとして使用するPCに保存されたファイル」、移動先が「NAS」です。メールは先にメールサービスへ移行している点も確認します。

設問6(1)②

本文の「第1段階で、本社のFSをNASに統合します」に着目します。統合には、本社のFSで保管しているファイルをNASへ移す作業が必要です。公式解答例の二つ目は、移動対象が「本社のFSに保管されたファイル」、移動先が「NAS」です。営業所のFS統合は第2段階なので、この設問の対象には含めません。公式解答例では①と②は順不同とされています。

設問6(2)①

図1と図2を比較すると、PC側の接続にL3SWAとL3SWBが加わり、既設のL3SW1からPC側ネットワークへ到達する経路が変わります。本文では静的経路制御を行うため、IPアドレスの設定だけでなく、経路情報の更新も必要です。公式解答例の一つ目は「L3SW1のルーティングテーブル」です。20字以内で変更対象の情報名を答えます。

設問6(2)②

PCは、自分のネットワーク以外へ通信するとき、設定されたデフォルトゲートウェイへパケットを送ります。TC導入後はPC側にL3SWAとL3SWBが配置され、VRRPの仮想ルータを利用する構成になるため、PCの送信先ゲートウェイも変更する必要があります。公式解答例の二つ目は「PCのデフォルトゲートウェイアドレス」です。20字以内でこの情報名を示します。採点講評でも、PCのデフォルトゲートウェイとL3SW1の経路表が変更対象として取り上げられています。

学習のポイント

VLANによるループの分離、VRRPの障害監視、OTPの再使用防止、メール移行中の配送経路と未設定利用者への影響を重点的に学びます。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成23年度秋期 ネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅱ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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