NWネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ

令和7年度春期 ネットワークスペシャリスト 午後Ⅰ 問1 ルータの更改

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 ルータの更改に関する次の記述を読んで、設問に答えよ。 A社は、従業員 800人の建設機械販売会社である。大阪本社のほか、東京に支社を 構えている。大阪本社と東京支社間は、広域イーサネットサービス網とIPsec VPNの 冗長構成(以下、WANという)で接続されている。A社のネットワーク(以下,A社NWという)はインターネットと接続している。また、WANを経由してプライベートク ラウドであるC社SaaS(以下、C社SaaSという)と接続している。 A社NWの一部を構成するルータのメーカーサポートが終了するので,A社情報シス テム部はルータの更改プロジェクトを立ち上げ、ネットワーク担当のBさんが担当す ることになった。 [現在のA社NW] 現在のA社NWを図1に示す。 【図1 現在のA社NW(抜粋)】 現在のA社NWの概要を次に示す。 ・A社の従業員は、内部ネットワークのPCを利用して、インターネットやサーバセ グメント内のサーバ群及びC社SaaSと通信し、業務を行っている。 ・A社NWでは、動的経路制御の一つであるOSPF を利用している。 ・IPsec VPN は DMVPN(Dynamic Multipoint VPN)を用いて広域イーサ網と同様のフ ルメッシュトポロジを実現している。また、IPsec VPNは、次に示すように広域イ ーサ網と同様の経路制御を行っている。 ・A社NWのOSPFのエリアは、エリアIDが0.0.0.0と表記される、【a】エリアだけで構成されている。 ・FW10、R10、R11、L3SW10、R20、R21、R30、R31の各機器がOSPF ルータとして動作 している。 ・OSPF ルータにはループバックインタフェースが作成され、ループバック IP アドレ スが設定されている。ループバックIPアドレスは、OSPFルータを識別する【b】IDとして利用されている。 ・OSPF の経路交換をしないインタフェースは、パッシブインタフェースとして設定 されている。 ・OSPF の経路交換をするインタフェースでは、① OSPF のネイバー認証を行うことで、 安全に経路交換をするようにしている。 ・OSPF のコスト設定によって、通常は広域イーサ網を利用して通信し、広域イーサ 網で通信できない場合は IPsec VPNを利用して通信する設計にしている。OSPF ルー タの各インタフェースにおける OSPF のコスト設定を表1に示す。 【表1 OSPFルータの各インタフェースにおけるOSPFコスト設定】 ・FW10は、インターネットに向けたデフォルトルートを設定しており、OSPF にイン ターネット向けのデフォルトルートの配布を行っている。 ・FW10はインターネットと接続し,NAPTによってIPアドレスとポート番号の変換を 行っている。 ・R30、R31とC社SaaSはeBGP で接続し、経路交換を行っている。eBGP 接続は認証 を行うことで、安全に経路交換をするようにしている。 ・② R30、R31は、eBGP で経路広告する際にAS_PATH プリペンド設定をしている。通 常はR30を利用して通信し、R30を利用して通信できない場合はR31を利用して通信する設計にしている。 ・R30、R31は、eBGP の経路をOSPF に再配布を行っている。 ・R30、 R31は、OSPF の経路をeBGPに再配布し、経路広告している。 ・R30、 R31は、eBGP の経路をOSPFに、OSPFの経路をeBGPにそれぞれ再配布を行っ ていることから、経路情報のループを防止するために、eBGP 接続でプレフィック スリストによる経路フィルタリングを行っている。 ・R20、R21の内部ネットワークと接続するインタフェースでは、PCに設定するデフォルトルートのネクストホップに相当する、【c】の可用性を向上するため に、VRRPが動作している。 ・VRRPのプライオリティの値は R20を105に,R21を100に設定している。 ・VRRPはプリエンプトを設定し、プライオリティの値が大きいルータが常にマスタ ーになるように制御している。また、③プリエンプトディレイを設定し、プライ オリティの値が高いルータの電源をオンにした際や再起動した際などは、一定時 間が経過した後にマスターに状態遷移するように制御している。 〔ルータ更改手順の作成〕 更改対象のルータは、図1中のR10、R11、R20、 R21、R30、R31である。A社情報シ ステム部のD課長は、次の方針に従ってルータ更改手順を作成するようにBさんに指 示した。 ・更改対象のルータは、同じルータメーカーの後継機種と交換を行う。後継機種は、 更改対象のルータから取得した設定内容で動作することが保証されている。 ・更改対象のルータを停止しても業務影響がないよう、あらかじめ設定変更によっ て通信が更改対象のルータを迂回するようにしてからルータを停止し,交換作業 を行う。 ・交換作業後は、必要な確認を行った後に、設定変更によって通信の迂回を解除す る。 Bさんは方針に従って、ネットワークシミュレーターを使って動作確認をしながら、 ルータ更改手順を作成した。ネットワークシミュレーターはメーカーから提供され ているソフトウェア製品であり、A社NWと同等の環境をPCで仮想的に再現できる。 Bさんは、R10を後継機種の新しいR10(以下,新R10という)に更改する手順を作 成した。Bさんは、④更改手順実施中に業務影響がないことを確認する方法として、 内部ネットワークのPCから継続してpingコマンドを実行することにした。また、継 続して ping コマンドの結果が正常で、パケットロスが確認されなければ業務影響が ないと判断することにした。Bさんが作成したR10の更改手順を表2に示す。 【表2 Bさんが作成したR10の更改手順】 Bさんは R11、 R20、 R21、R30、R31についてもそれぞれの更改手順を作成した。ネ ットワークシミュレーターを使って、継続してping コマンドを実行しながらそれぞ れの更改手順を実施し、ping コマンドの結果が正常でパケットロスがないことを確 認した。更改手順に問題がないことを確認できたので、Bさんは更改手順書としてま とめた。Bさんは作成した更改手順書をD課長に提出し、承認された。 設問1〔現在のA社NW〕について答えよ。 (1) 本文中の【a】~【c】に入れる適切な字句を答えよ。 (2) 本文中の下線①について、OSPF のネイバー認証によって、どのような問題 を防止することができるか。経路交換の安全性の観点から35字以内で答えよ。 (3) 本文中の下線②について,R31が経路広告するAS_PATH 長はR30と比較して どうする必要があるか、答えよ。 (4) 本文中の下線③について、ルータの電源をオンにした際や再起動した際に 一定時間待つのは、ルータがどのような状態になることを待つためか。OSPF を利用していることに着目して25字以内で答えよ。 設問2 〔ルータ更改手順の作成〕について答えよ。 (1) 本文中の下線④について、R10の更改手順実施中に、大阪本社の内部ネッ トワークから ping コマンドを実行する際の宛先にすべき対象と、東京支社の 内部ネットワークから ping コマンドを実行する際の宛先にすべき対象を、 R10を経由する通信に着目して、図1中の(ア)~(ウ)の記号で全て答えよ。 (2) 表2中の下線⑤について、R10のインタフェースに設定するOSPF のコスト をどのような値に変更すべきか。30字以内で答えよ。 (3)表 2中の下線⑥について、項番 2-1の電源をオフする前に全ての物理イン タフェースを閉塞する理由を30字以内で答えよ。 (4) 表2について、項番 2-6のイーサネットケーブルを接続する際に,誤った インタフェースに接続しないようにするために、項番 2-2の前にどのような 手順を追加するべきか。25字以内で答えよ。 (5) 表2中の下線⑦について、新R10からping コマンドを実行する際の宛先に すべき対象を、図1中の機器名を用いて四つ答えよ。
図1 現在のA社NW(抜粋)。大阪本社、東京支社、C社データセンタ、WAN及びIPsec VPNの構成。
図1 現在のA社NW(抜粋)。大阪本社、東京支社、C社データセンタ、WAN及びIPsec VPNの構成。
表1 OSPFルータの各インタフェースにおけるOSPFコスト設定。
表1 OSPFルータの各インタフェースにおけるOSPFコスト設定。
表2 Bさんが作成したR10の更改手順(項番1-1~3-4及び注記を含む)。
表2 Bさんが作成したR10の更改手順(項番1-1~3-4及び注記を含む)。
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判断の前提をそろえて考える

検討するときは、判断に使う前提が途中で変わっていないかに注目しましょう。与えられた条件のどこまでが同じ状況を指すのかを整理すると、知識だけで結論を急がず、根拠を確かめながら考えられます。

この問題で問われていること

この問題では、ある判断の根拠として使った条件と、その判断を当てはめる場面が対応しているかを意識しましょう。明記された条件と自分が補った想定を分け、同じ前提の範囲で考えているかを確かめることが手掛かりになります。

視点

条件と判断の対応を整理する際は、明示された前提の範囲を保つことを意識します。ある場面で用いた前提を別の場面にも当てはめていないか、判断の根拠を振り返りましょう。

確認ポイント

  • 判断の前提は、与えられた条件に基づいているか
  • 明記された条件に、自分の想定を付け足していないか
  • 根拠にした条件と、判断を当てはめる場面は対応しているか
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解説

冗長化されたネットワークで業務通信を維持しながらルータを更改する問題です。通信経路を図から読み取り、OSPFによる迂回、VRRP切替前の経路収束、交換後の疎通確認、異常時の迅速な切り戻しを結び付けて理解します。

問題の全体像

A社は大阪本社と東京支社を広域イーサ網とIPsec VPNで冗長接続し、WAN経由でC社データセンターのC社SaaSも利用しています。メーカーサポート終了に伴うルータ更改では、事前に通信を迂回させ、交換と確認の後に通常経路へ戻す方針です。出題趣旨では、OSPFやVRRPの理解と、企業ネットワークの停止を伴わないメンテナンス手法を問うとしています。図1の通信経路と表2の作業順序を対応させることが解答の軸になります。

設問1(1)

公式解答例では、aは「バックボーン」、bは「ルータ」、cは「デフォルトゲートウェイ」です。aはエリアIDが0.0.0.0という記述から、OSPFのバックボーンエリアと判断します。bはOSPFルータを識別するIDなので、ルータIDを指します。cはPCのデフォルトルートのネクストホップに相当するという記述に着目します。R20とR21のVRRPによって、このデフォルトゲートウェイの可用性を高めています。

設問1(2)

下線①は、OSPFで経路交換するインタフェースにネイバー認証を設定するという記述です。認証によって、不正なOSPFルータと隣接関係を形成し、経路交換してしまうことを防ぎます。公式解答例でも、この不正なルータとの隣接関係と経路交換を問題として挙げています。35字以内の答案では「不正なOSPFルータと隣接関係になり経路交換してしまう問題」とまとめます。経路交換の安全性が問われているので、通信データの暗号化という説明には置き換えません。

設問1(3)

下線②の「通常はR30を利用し、R30を利用できない場合はR31を利用する」という設計に着目します。AS_PATH長による比較では短い経路が優先されるので、R31から広告する経路のAS_PATH長をR30より長くし、R31側を予備経路にします。AS_PATHプリペンドは、AS番号を追加してこの長さを調整する設定です。公式解答例では「長くする。」としています。

設問1(4)

下線③では、優先度の高いルータが起動直後にVRRPのマスターへ戻らないよう、プリエンプトディレイを設定しています。起動直後はOSPFの経路情報がまだ収束しておらず、その状態でPCからの通信を引き受けると正常に転送できないおそれがあります。待つ対象は、ルータが必要な経路情報を得て転送できる状態になることです。公式解答例に沿い、25字以内では「OSPFの経路情報が収束した状態」とまとめます。採点講評でも、動的経路制御を使うルータには経路情報の収束が必要である点を強調しています。

設問2(1)

公式解答例では、大阪本社からは「(ウ)」、東京支社からは「(ア)、(イ)」です。図1の(ア)はインターネット、(イ)は大阪本社のサーバセグメント、(ウ)はC社データセンターにあるC社SaaSです。大阪本社の内部ネットワークからC社SaaSへの通常の通信は、L3SW10、R10、広域イーサ網、R30を経由するので、(ウ)を監視対象にします。大阪本社から(ア)や(イ)への通信は本社内で接続され、R10を経由しません。一方、東京支社から(ア)や(イ)への通常の通信は、R20、広域イーサ網、R10を経由して大阪本社へ向かうので、両方を対象にします。東京支社から(ウ)へは広域イーサ網を通じてR30へ向かい、R10を経由しません。C社SaaSの所在地と、送信元ごとの経路を分けて読み取ることが重要です。

設問2(2)

表2の項番1-1では、R10を停止する前にOSPFコストの変更で通信を迂回させます。表1では広域イーサ網が100、IPsec VPNが1000であり、経路選択では経路上のコストを比較します。R10を通る経路が代替経路より選ばれにくくなるよう、コストを十分大きくします。公式解答例では「65535といった十分大きな値に変更する。」としています。30字以内の答案でも、この具体例と十分大きくするという要点を押さえます。採点講評でも、このコスト変更による迂回をOSPFの運用技法として挙げています。

設問2(3)

表2では、迂回の正常性を確認した後、項番1-3で物理インタフェースを閉塞し、その後に電源をオフにします。閉塞によって予想外の問題が起きても、電源が入っていれば閉塞を解除して素早く切り戻せます。先に電源を切ると、復旧には起動を待つ必要があります。公式解答例に沿い、30字以内では「物理インタフェース閉塞の方が素早く切り戻せるから」とまとめます。採点講評でも、事前検証済みの手順であっても予想外の問題を想定し、影響を抑えて迅速に切り戻せるようにする重要性を指摘しています。

設問2(4)

項番2-2で全てのイーサネットケーブルを抜去すると、どのケーブルをどのインタフェースに戻すか分からなくなるおそれがあります。そこで、抜去前に接続先を識別できるラベルをケーブルに付けます。公式解答例では「イーサネットケーブルにラベルを付与する。」です。25字以内の答案では、この作業をそのまま簡潔に示します。交換後も元の接続関係を再現できることが、誤接続の防止につながります。

設問2(5)

公式解答例の四つの対象は「L3SW10、R11、R20、R30」です。図1で、新R10から接続先への疎通を確認するという目的に着目します。L3SW10は大阪本社のLAN側、R11は本社内で接続する相手、R20とR30は広域イーサ網上の相手です。広域イーサ網はフルメッシュなので、R10からR20とR30へそれぞれ疎通を確認します。表2の項番3-2は物理インタフェースの閉塞解除後、迂回解除前に置かれており、新R10の接続を確認してから業務通信を戻す手順になっています。

学習のポイント

送信元ごとの通信経路を正確に追い、経路選択、経路収束、切り戻しを考慮した保守手順を学習します。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和7年度春期 ネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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